俺は震える手でドアチェーンを掛けた。
「俺男さん!?やっぱりいるのね!!?開けて!!!開けてよ!!!開けてくれないんだったら…」
鍵穴に鍵を指す音が聞こえた。
ドアが開き、10センチほどの隙間から、ビチ子の叫び声が聞こえる。
ドアチェーンを外そうと、手がスーッと入ってきた。

その時、
「どうしたんですか?」
と見知らぬ人の声がした。
その途端、ビチ子は走り去っていた。
どうやら、ビチ子を不審に思った隣人が声をかけたらしい。
安心した途端に腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
壁に縋り付きながら、なんとか立ち上がった。
外を覗くが誰もいなかった。
隣人に、お礼の一言も言うべきだったが、正直それどころではなかった。

慌てて荷物をまとめ、タクシー会社に電話をした。
マンション前の道路にタクシーが見えたので、猛ダッシュでタクシーまで駆け込み飛び乗った。

深夜のタクシー料金は高く付いたが、安心感の方が勝った。
実家の両親は驚いていたが、事情を話すと
「落ち着くまでうちに居なさい」と言ってくれた。

A男と弁護士には、ビチ子襲来の件と、実家で過ごす旨を連絡したが、
ビチ子の両親に連絡をする気にはなれなかった。
電話の雰囲気からするに、ビチ子の母親は反省し、俺の言い分を認めてくれていたようであったが、
俺が実家に籠ることを、ビチ子の両親が秘匿してくれる保証もなかったし、
今はビチ子に関わる全ての人との関わりを絶ちたかった。

それから数日、ビチ子からの連絡は絶えなかったが、
幸いにも実家へ襲来することもなく、平穏な日々を過ごしていた。
着替えが尽きたため、一度自宅に戻ることにした。
一人であの自宅に行く気にはなれなかったので、情けないながらも父親に付き添ってもらった。
自宅のドアを開けると、思わず悲鳴をあげてしまった。

自宅の部屋は荒れに荒れていた。
家具類は倒れ、割れる物はほぼ全て割られていた。
ガラス周りには、血痕もあった。

俺はその場にへたり込んでしまったが、父親が警察に連絡をしてくれた。
数分後警察が駆け付けると、事情聴取を受けた。

「だいぶ荒らされてますね。何か取られた物はありますか?」
「まだ…確認してません…。でも…たぶん泥棒じゃないです」
「え?どういう事ですか?」
「彼女が…婚約者の仕業だと思います…」
「婚約者の方がですか?」
「はい…」
「ちょっと中見せて頂いていいですか?あと、写真も撮りますがよろしいですね?」
「はい…」