夕方過ぎに、A男からメールが来た。
『A男くん、ピンチです。』
添付写真には、会社のロビーに佇む男女の姿があった。
『もしかして、ビチ子たちか?』
『そお。A男くん帰れない。こまたーよ/(^o^)\』
まさか会社にまで押し掛けるとは思っていなかった。
A男はどこか楽しんでいる節もあったが、
それでも危険には違いないので、A男に電話をかけようとすると、再度メールが来た。
『社員に紛れて退社完了!逆スネークしたるわ。』
『スネーク?』
『ビチ子たちを尾ける。』
『やめとけって。』
『俺の暴走は何人たりとも止められない!』
『危ないぞ。お前だって恨み買ってるんだから。』
『携帯の恨み、晴らしたる!』
何を言っても無駄なようだったので、
『無茶だけはするなよ。』
と返信して、A男からの連絡を待つことにした。

ビチ子が俺の会社に来ているということは、今は実家にはいないということか…。
そう思い、俺はビチ子の実家に電話をかけた。
母親が出たので、若干萎縮した。
「あ、あの。俺男です」
「俺男さん…?メール、見ましたよ」
「はい。あの…ご理解頂けましたでしょうか…?」
「本当なのね」
「ええ。残念ながら…」
「俺男さんは、別れるつもりなのね」
「そのつもりです。弁護士も手配しました。100%ビチ子さんの有責になると思います」
「そう」
「近日中にまた連絡を入れますが、ビチ子さんがその…ああいった状態ですので、
今後も冷静に話が出来ないようであれば、弁護士を通して連絡しあうことになると思います」
「わかりました。迷惑をかけて、ごめんなさいね」
「いえ、ご両親には何の非もありませんので。あ、あと…」
「なにか?」
「ビチ子さん、今日僕の職場に来ていたそうなんです。ああいうのも、やめるように言って頂けますか…?」
その…そういう事をすると、ビチ子さんにも色々と不利になりますので」
「ビチ子…そんなことを…。ごめんなさいね。帰ったらよく言っておきます」
「お願いします」

ビチ子の母親は、だいぶ意気消沈していたようだった。
申し訳ない気持ちにもなったが、それでビチ子への怒りが収まるわけではなかった。

A男から
『なかなかしぶとい。1時間待ったが動きがないので、A男帰宅する。』とメールが来た。
『すまんな。でも危ないから、もうするなよ。』
『了解!』

しばらくすると、家のインターフォンが鳴った。
ドアスコープを除くと、うつろな顔でこちらを覗くビチ子の姿があった。
恐怖でしばらく動けなかった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
しばらく黙って放置していると、ビチ子がドアを叩き出した。
「俺男さん!いるんでしょ!!!!開けてよ!」
手足が震え、玄関から動けなくなってしまった。
落ち着け…落ち着け…。
なんとか冷静になろうと深呼吸をした。

待てよ…。ビチ子、この家の鍵を持ってるじゃないか…。
いつでも鍵を開けられる…!